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結腸癌・直腸癌の手術成績(大腸癌について)

大腸の構造と働き

 大腸は,結腸(盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸)と直腸(直腸S状部,状部直腸,下部直腸)に分けられます.盲腸というと一般の方は盲腸炎(実は虫垂炎=盲腸から垂れ下がる虫のような臓器が腫れる病気)を連想されることが多いようですが実は大腸の一部分の名称です.盲腸は右下腹部にあり,小腸から大腸への食物の輸送を調節して有毒な老廃物の逆流を防いでいます.盲腸から右腹部を上に走る上行結腸,そこから真横に左へ走る横行結腸,左腹部を下へ向かう下行結腸,下腹部でS字型に曲がっているS状結腸と続き,骨盤の中で直腸へ繋がります.直腸はほぼまっすぐに下へ向かい,出口が肛門です.肛門には括約筋という筋肉があって肛門を閉じて便が漏れないようにしています.
大腸の主な働きは水分の吸収です.大腸の右半分は消化管の中で最も多くの水分を吸収し,吸水結腸と呼ばれます.大腸の左半分は便を送る役目を担い,送便結腸と呼ばれます.便が直腸に移行すると刺激が骨盤の知覚神経から脳に伝わり便意を感じます.排便の際には腹腔内圧の上昇,直腸の収縮で便が押し出され,肛門括約筋が緩んで排泄が起こります.


大腸癌とは?

 大腸の粘膜から生じる上皮性悪性腫瘍のことです.近年の食生活の欧米化に伴って日本人に増加傾向が著しいといわれ,年間の罹患数がいずれ胃癌を抜くとの予測もあります.大腸癌による死亡は男性では肺癌、肝臓癌に次いで3番目,女性では1番目に多くなると推定されています.大腸癌の発生には食生活の急激な欧米化,特に動物性脂肪やタンパク質のとり過ぎが関わっているといわれていますが,遺伝子の関与も指摘されています.


大腸癌の症状

 自覚症状は癌の出来る場所や大きさによっても違いますが,腹痛,下痢と便秘の繰り返しといった消化器症状がおきやすいです.右側結腸では特徴的な自覚症状に乏しいこともあります.貧血が初発症状だったり,腸閉塞(癌の増大により腸の内腔が狭くなる)を併発し嘔吐したりして見つかる場合があります.癌がS状結腸や直腸に出来た場合,便柱狭小や血便,肛門出血を起こします.出血を痔と自己判断して受診が遅れてしまうと進行することがありますので放置せず早期に受診してください.


大腸癌の診断
  1. 便潜血反応
  2.  大腸癌を発見するための最も簡便な検査ですが,陽性だから必ず大腸癌ということではなく,また,陰性だから大腸癌でないとは言い切れません.あくまでも症状のない方のなかに隠れている早期の大腸癌を発見するキッカケの検査と考えてください.大腸癌の確定診断のためには以下の検査が必須です. いずれも検査前日に食事制限や下剤によって大腸をからっぽにしておく必要がありますが,診断は正確です.

  3. 注腸造影検査
  4.  肛門からチューブを挿入して造影剤と空気を注入し,大腸を管状に造影したX線写真をとります. 大腸の内腔を狭くするような大腸癌からポリープ状の病変まで,その部位や大きさを把握することが出来ます.

  5. 大腸内視鏡(カメラ,ファイバースコープ)
  6.  肛門から挿入して大腸の内腔(粘膜)を観察する検査です.内視鏡では観察するのみでなく,大腸癌を疑う病変から直接細胞を採取する生検を行うことができます.これによって癌の確定診断がつけられる訳です.内視鏡の利点は極めて小さなポリープも発見でき,かつポリペクトミー(ポリープの切除)が可能であることです.内視鏡の弱点はごくまれに大腸穿孔などの合併症を起こすことですが,当院では合併症が起きたときに外科医が迅速に対応する体制が確立されています.

  7. 画像診断(CT、MRI、超音波検査、PETなど)
  8.  大腸癌は肝臓や肺などに転移する場合があります.術前にこのような転移を評価する際,また,術後に転移や再発が起きていないかを発見するために,これらの検査を行う必要があります.最近ではCTやMRIで診断できない再発の発見にPET検査が有用な場合があります.


大腸癌の治療
  1. 内視鏡的治療(消化器内科が担当します)
  2. 癌ではない良性のポリープ(腺腫)や粘膜内にとどまる早期癌の多くは内視鏡的に切除することが可能です.茎のあるポリープではスネアという針金を茎に引っ掛けて通電し焼ききるポリペクトミーという方法を行い,茎のないものは粘膜下に液体を注入して粘膜を浮き上がらせて切除する内視鏡的粘膜切除(EMR)を行います.癌が粘膜内にとどまる場合は内視鏡的治療のみで治療を終えることが出来ますが,病理検査(顕微鏡で組織を見る検査)で病変が粘膜下組織に達していればリンパ節転移の危険性が生じることから外科治療を追加する必要があります.

  3. 外科療法
  4. (1)結腸癌の手術
    開腹して行う場合と後述する腹腔鏡を用いて行う場合がありますが,基本的に行うことは同じです.大腸癌は血液やリンパ液の流れを介して他臓器に転移していきますので,これを予防する目的で,癌の存在する大腸の部分をその領域の血管・リンパ節を含めて切除します.その上で残った健常腸管同志を繋ぎ合わせる「吻合」を行います.結腸癌の手術では術後に大きな機能障害が残る心配はほとんどありません.

    (2)直腸癌の手術
    結腸癌と異なる点は,直腸が骨盤腔内に存在し,周囲に膀胱,男性では前立腺,女性では子宮・卵巣といった臓器があり,また,肛門に近いということです.

    1) 自律神経温存手術
    排尿・排便・性機能は骨盤内の自律神経によって支配されています.この神経を温存することが以前は広く行われておらず,術後の排便・排尿・性機能障害が問題となっていました.近年では自律神経を温存する層で直腸を剥離して切除する術式が開発され,当院でも神経温存手術を基本としています.癌が自律神経の近くに浸潤している場合は癌を残さず摘出するためにやむを得ず神経温存が行えない場合もありますが,温存手術を行えば手術前と同様の排尿,排便,性機能を残すことが可能です.

    2) 局所切除
    肛門にごく近くにある腺腫や早期の癌では,開腹手術を必要とせず病変部を局所切除することが可能です.肛門からアプローチして直接腫瘍を見ながら切除する方法です.
    病変は深く浸潤しているものでも,高齢者で全身麻酔を行うことが危険と評価された患者様には下半身のみの麻酔で仙骨の部分から切開して直腸を全層切除する方法も行っています.

    3) 肛門温存手術について
    (1)低位前方切除術と腹会陰式直腸切断術
    肛門に近い癌の場合は肛門を温存できるか否かが患者様の術後QOL(生活の質)に非常に重要なウエイトを占めます.従来は多くの施設で直腸を肛門ごと抜いてしまい人工肛門(ストーマ)を造設する腹会陰式直腸切断術(Miles手術)が行われていましたが,近年では自然肛門を温存して直腸を切除し残った僅かな直腸断端と口側の結腸を吻合する低位前方切除術が行われています.肛門に近い癌で肛門を温存するには解剖の詳細な理解と高度な技術が必要なため,低位前方切除を行える高さの限界は施設によって未だ差があるのが現状ですが,当院では以前から肛門縁から約4~5cm,肛門管上縁から2cmの距離をとれる位置までの直腸癌に対しては自然肛門を温存した手術を行ってきました.これによって多くの症例で自然肛門を温存することを可能としてきました.この位置よりも肛門に近い部位に癌が存在する場合には腹会陰式直腸切断術が標準術式としています.この術式となった患者様にはストーマが造設されますが,当院ではストーマ外来を開設し,ストーマを造設された患者様(オストメイト)のサポートを行っています.

    (2)肛門括約筋温存術
    近年ではより肛門に近い直腸癌でも肛門括約筋を温存するか部分的に切除して癌を摘出し自然肛門を温存する術式が全国の限られた専門施設で行われてきています.適応は早期癌や深さが固有筋層までの癌に限定されますし,術後の排便コントロールの問題などクリアされるべき点が多く,標準術式にはなっていません.
    この術式を当院でも肛門温存を強く希望される患者様に対しては十分にご説明し同意をいただいた上で行っております.平成25年10月現在29例(うち17例は後述する腹腔鏡手術)を行っています.また,本術式を多く経験している近県の専門施設(その場合は開腹手術になります)をご紹介することも可能ですので他院で肛門温存不可能とされ,自然肛門温存を希望される患者様は一度ご相談ください.(担当:笠島).

    (3)腹腔鏡手術
    大腸癌の手術は開腹手術で行われるのが標準ですが,当院では2004年より早期癌や内視鏡切除で粘膜下組織に癌の浸潤が疑われたような症例で腹腔鏡手術を導入し安全性を確認して2009年から進行癌でも腹腔鏡手術を標準手術としています.最近は大腸癌手術全体の9割以上を腹腔鏡手術で行っています.
    炭酸ガスで腹腔内をドームのように膨らませ,トラカールと呼ばれる筒を体に数本挿入して大腸の剥離,授動を行い,大腸を取り出すために約5cmの小切開を加えて大腸を切除し吻合して腹腔内に戻す方法です.開腹術と比較して,拡大視効果により出血少なく繊細な手術ができるのが特徴です.傷が小さくすむため術後の疼痛が少なく早期に退院できる術式です.

    当院の大腸癌手術件数(2005年~2016年)

    手術件数に占める腹腔鏡手術の割合

    適応拡大とともに腹腔鏡手術が増加しています.
    ※Reduced Port 腹腔鏡手術とは単孔式など通常の腹腔鏡手術よりさらに傷の少ない手術のことです.


    大腸癌の進行度(病期=stage)

    大腸癌は胃癌など他の消化管の癌と同様,一番内側の膜である粘膜から発生し,粘膜下組織,固有筋層,漿膜下層,漿膜(漿膜のない部分では深部組織)へと浸潤していきます.大腸癌の深さを深達度といいます.
    前述の検査を行うことで,大腸癌の進行度の評価が出来ます.進行度の評価には一般に病期分類が用いられます.大腸癌の進行度は①癌が大腸壁のどのレベルまで入っているか(深達度),②リンパ節転移の有無と範囲,③遠隔転移の有無,④腹膜播種(腹膜への転移)の有無で規定されます.

    (Stage分類)
    Stage0:癌が粘膜内にとどまるもの
    StageⅠ:癌が固有筋層までにとどまるもの
    StageⅡ:癌が固有筋層を越えているが周囲の臓器に及んでいないもの
    StageⅢa:癌が周囲臓器に及んでいるか,1群リンパ節に転移しているもの
    StageⅢb:2~3群リンパ節に転移しているもの
    StageⅣ:4群リンパ節か腹膜,肝,肺など遠隔転移のあるもの

    国際的に広く使われているのはDukes分類ですが,日本ではより細かいStage分類が用いられています。


    当院の結腸癌手術成績

    2005年1月から2016年9月までに手術(原発巣を切除)し1年以上経過した症例の集計
    明らかに大腸癌以外の原因で死亡した方は除いています.



    当院の直腸癌手術成績

    2005年1月から2016年9月までに手術(原発巣を切除)し1年以上経過した症例の集計
    明らかに大腸癌以外の原因で死亡した方は除いています.

    亡くなった患者様の死亡原因は必ずしも癌による死亡とは限りません.他施設の手術成績の集計と比較してほぼ同等か結腸癌ではより良好な成績です.



    外科治療に伴う合併症

    手術が滞りなく行われた患者様であっても合併症を併発してしまうことがあります.大腸癌の手術に伴う合併症には以下のようなものがあります.消化管以外の手術や胃癌手術と比較してSSI(Surgical site infection=手術創部の感染)の頻度が高くなってしまうのが問題点です.SSIは患者様の生命やQOL(生活の質)に影響を及ぼす可能性はほとんどありませんが,縫合不全(腸を吻合した部分が漏れてしまう合併症)を起こしてしまうと生命にかかわることもあり,最も気をつけなくてはならないものです.以下に当院の成績を示します.縫合不全に関しては国内の他施設の報告と比較しても遜色のなく,むしろ良好な成績です.さらに合併症を減らすために,感染予防対策や吻合法の検討や工夫などを行っています.



    当院での手術合併症とその内訳

    ① 結腸癌手術の合併症



    ② 直腸癌(RS含む)手術の合併症

    術後合併症の頻度はいずれも低く抑えられています.



    その他の治療法について

  5. 放射線療法
  6. 切除不能な直腸癌や骨盤内再発の治療には放射線治療を用いる場合があります.骨などの他臓器転移の治療にも用いられます.

  7. 化学療法
  8. 手術後の再発予防や,診断時点で転移があり手術のみでは根治できない場合の治療には抗癌剤の投与が必要になることがあります.当院では外科,消化器科,放射線科で共同し病院全体として標準化した化学療法をおこなっています.
    外科では主に根治術後の再発を予防する目的で補助化学療法(主に経口抗癌剤を用いた外来通院での治療)と再発患者様の化学療法を担当しています.初診時点で肝臓に転移が見られた場合,可能であれば肝転移を切除しますが,切除できない肝転移がある場合や肝転移切除後には肝臓への動脈にカテーテルを留置して抗癌剤を肝臓に直接投与する肝動注療法を放射線科が担当しています.手術時点で肺転移や腹膜播種がある場合には消化器科で抗癌剤治療を行っています.