病院について がん診療に関する当院の取組み 治療成績の集計と公開 > 乳癌の手術成績(乳癌について)


乳癌の手術成績(乳癌について)

乳癌の疫学

近年、日本における乳癌の罹患率と死亡率は増加しつつあることが知られています。女性の乳癌罹患率は既に胃癌の罹患率を追い越していると予想されています。 疫学的研究から乳癌の危険因子として多くの因子が挙げられてきましたが、未だ議論の多いところです。近年のEBMの研究から危険因子として、年齢(40歳以上) 、家族歴に乳癌、中等量以上の飲酒、高線量の被爆、増殖性変化を伴った病変の既往、閉経後のホルモン補充療法などが指摘されています。以前から危険性が指摘されていた喫煙、脂肪の摂取、中心性肥満、通常の医療被曝、経口避妊薬などによるリスクの増加は確認されていません。

当院における乳癌手術を受けた患者様の年齢分布を見ますと、年齢とともに症例数が増加し、41歳以上で顕著で51~55歳にピークを認めました。

年度別手術患者数を見ても、近年の乳癌の増加傾向が覗えます。

乳癌の症状

乳癌の患者様のほとんどは乳腺の"しこり(腫瘤・硬結)"を訴えて来院します。"しこり"とは周囲より硬いかたまりを言います。乳腺のしこりを示す疾患は乳癌だけとは限らず、線維腺腫などの良性腫瘍、乳腺症などが挙げられます。痛みは伴っている場合といない場合があります。  病変が皮膚に及ぶと皮膚のえくぼ症状、引きつり、発赤などが出現します。  稀に、骨転移による腰痛を訴えて整形外科を受診する場合もあります。

乳癌の診断

1)視診・触診
 皮膚の変化(えくぼ症状、引きつり、発赤など)を観察します。触診ではしこりの形状、大きさ、硬さ、周囲組織への固定の有無などを観察します。

2)マンモグラフィ
 乳房専用のX線撮影装置によって撮影されます。腫瘤の有無・形状、石灰化の有無・形状・分布、乳腺の左右差などからマンモグラフィの所見はカテゴリー1~5に分類されます。

カテゴリー 0  追加の画像検査の後判定)
カテゴリー 1  所見なし、通常の検診間隔
カテゴリー 2  良性、通常の検診間隔
カテゴリー 3  おそらく良性、短期間の経過観察
カテゴリー 4  悪性の疑い、生検を考慮
カテゴリー 5  悪性を強く疑う、生検を推奨

40歳代以上に対してのマンモグラフィによる乳癌検診は死亡率を減少させることが証明されています。しかし、若年者の診療マンモグフラフィ有用性は確認されていません。

3)超音波検査
 腫瘤・硬結を訴える症例に対して良悪性に鑑別に有効です。充実性・嚢胞性の鑑別、腫瘤径の測定、乳管内進展の診断に優れています。機器の進歩により診断能力は格段に進歩してきています。視触診やマンモグラフィで異常が指摘できない症例においても有効であることが指摘されています。また、次に述べる穿刺吸引細胞診を超音波ガイド下で行うことが推奨されています。

4)細胞診
 病理組織学的検査によって確定診断がなされます。生検方法によって、穿刺吸引細胞診針生検、摘出生検、画像ガイド下生検などが行われます。

5) CT
 腫瘍の拡がり、リンパ節転移の有無、肺転移の有無、肝転移の有無の検索に利用されます。

6) MRI
 病巣に拡がりの診断、リンパ節の描出に利用されます。機器の進歩によって利用価値が上昇してきています。

7) 骨シンチグラフィ
 骨転移の有無の診断に利用されます。

8) 腹部超音波検査
 経過観察の手段として肝転移の有無の観察目的に行われます。

9) 腫瘍マーカー
 血液中の腫瘍マーカーの測定を行うことがあります。腫瘍が-カーが上昇していないからといって再発がないと断言することは出来ませんが、ある程度の利用価値があります。再発例で腫瘍マーカーが上昇している場合には、化学療法の効果判定に利用されます。

乳癌の治療

 乳癌の治療は手術だけでは不十分で集学的治療(複数の異なる治療法を組み合わせて行う治療方法)が行われます。放射線療法・化学療法・内分泌療法が必要です。

A) 手術療法
 根治を目指し摘出手術が行われます。様々な手術方法が行われてきました。現在は主に以下の二つの方法が行われます。

1) 乳房切除+腋窩郭清
乳房の全摘と腋窩リンパ節の郭清術が行われます。

2) 乳房温存手術:乳房部分切除+腋窩郭清
 乳房の部分切除と腋窩郭清術が行われます。乳房を全摘しませんので整容性を保つことが出来ます。しかし、乳房を温存した場合には乳房切除した場合と比較して局所再発が多くなります。改めて再切除が必要な場合もあります。温存療法後に放射線療法を追加すると局所再発を減少させることが出来ます。
 以下のような症例は乳房温存療法の適応とはなりません。
(1) 多発癌が異なる乳腺腺葉領域に認められる。
(2) 広範囲にわたる乳癌の進展が認められる。
(3) 温存乳房への放射線療法が行えない。
  (ア) 温存乳房への放射線照射を行う体位がとれない  
 (イ) 妊娠中
  (ウ) 患側乳房、胸壁への放射線照射治療既往
  (エ) 強皮症や全身性紅斑性狼瘡(SLE)などの膠原病を合併している
(4) 腫瘍径と乳房の大きさ(推奨される大きさは3cmまで)のバランスから整 容的に不良な
温存乳房の形態が想定される。
(5) 患者様が乳房温存療法を希望しない

※ 切除可能乳癌で腫瘍径が大きい場合、術前化学療法を行う場合があります。化学療法によって腫瘍径の縮小が得られれば乳房を温存することが出来ます。化学療法の効果が得られなければその時点で乳房を切除することになります。

※ センチネルリンパ節生検(SLNB):最初に転移するリンパ節(SLN)を生検(SLNB)し、転移陰性と判断された場合に腋窩リンパ節の郭清を省略することが出来ます。腋窩リンパ節の郭清を省略することによって、術後の後遺症としての上腕の浮腫、知覚異常、腋窩のリンパ節貯留を防ぐことが出来ます。しかし、現時点ではSLNを同定する方法が未だ標準的な方法にはなっていません。

※ 当院における手術スケジュールおよそ次のように行われます。  
 1. 術前検査はなるべく外来で行います  
 2. 手術日を決定、手術の前日入院となります  
 3. 全身麻酔下で手術  
 4. 術後5日から10日くらいの間、手術創の回復具合によって退院が決まります  
 5. 術後およそ2週間後、摘出標本の詳細な検査終了後に次の治療スケジュールに移ります。

市立函館病院 乳癌初回手術症例

年齢別手術症例数

B) 放射線療法
 乳房温存手術に続いて局所再発を防ぐために乳房に照射が行われます。  骨転移の疼痛に対して疼痛緩和目的に行われます。

C) 化学療法
 手術後に補助化学療法として、複数の抗癌剤を併用した、多剤併用療法が行われます。幾つかの薬剤の組み合わせが推奨されていて、スケジュールに沿って4~6回行われます(約半年間)。補助化学療法によって再発の約30%を減少させるといわれています。
 現在では術後の補助化学療法の主流は外来化学療法となってきました。初回の化学療法は通常入院で行います。抗癌剤投与後の嘔気・嘔吐などの副作用出現の程度を検察した後、2回目からは外来治療となります。スケジュールを決めて外来受診し、外来の化学療法の部所で点滴治療を行います。抗癌剤投与直後の副作用が強く、食事がなかなか食べられないような患者様の場合には短期間入院で化学療法を行います。

再発・手術不能例に対しても化学療法が行われます。

乳癌は抗癌剤が比較的感受性の高い悪性腫瘍です。抗癌剤の使用による副作用のとして骨髄抑制、脱毛、消化器症状などがあります。脱毛しても抗癌剤を中止することで必ず生えてきます。

D) 内分泌療法
 乳癌は女性ホルモンの感受性を有しています。女性ホルモンの影響を遮断することによって癌の発育を抑制することが出来ます。ホルモン療法は術後補助療法として行う場合には化学療法と同等の効果があるといわれています。化学療法とホルモン療法の双方を行う場合には通常化学療法を先行して行います。  再発乳癌の場合にも行われます。

※ トラスツブマブ(ハーセプチン)療法
 ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陽性乳癌患者に対して行われる、モノクローナル抗体治療です。乳癌患者の約25%がHRE2陽性乳癌です。現行ではHER2陽性乳癌患者の術後再発症例の治療に行われています。今後、術後再発予防目的に補助療法として期待されています。

乳癌の進行度(病期=stage)

 乳癌の進行度は腫瘍の大きさ、リンパ節転移の状態、遠隔転移の有無によって分類されます。

(Stage分類)
病期 0 非浸潤癌
病期 I 腫瘍が2cm以下かつリンパ節転移を認めないもの
病期 IIA 腫瘍が2cm以下かつ同側腋窩の可動性のリンパ節転移を認める
または腫瘍が2cmより大きく5cm以下かつリンパ節転移をみとめないもの 
病期 IIB 腫瘍が2cmより大きく5cm以下かつ同側の可動性のリンパ節転移を認めるもの
または腫瘍が5cmより大きくかつリンパ節転移を認めないもの
病期 IIIA 腫瘍が5cm以上かつ同側腋窩の可動性リンパ節転移を認めるもの
または腫瘍の大きさを問わないが同側の固定したリンパ節転移あるいは胸骨傍リンパ節転移をみとめるもの
病期 IIIB 腫瘍の大きさを問わないが胸壁固定あるいは皮膚浸潤を伴うもの
病期 IIIC 腫瘍の大きさを問わないが同側腋窩と胸骨傍リンパ節転移を認めるもの
または同側鎖骨下リンパ節または同側鎖骨上リンパ節転移を伴うもの
病期 IV 遠隔転移を伴うもの

再発の治療

 再発癌の治療には化学療法、内分泌療法、ハーセプチンによる治療が選択されます。再手術は局所再発、腋窩リンパ節再発、肺転移、肝転移の一部に限って行われることがあります。


当院における手術成績

 1993年1月から2004年12月までに手術が行われた症例の予後調査を行いました。乳癌は患者様が早期に自ら異常に気付いて受診することが多く、病期が進んでいない時点で診断されます。消化器癌などと比較して術後の生存率が高いといえます。しかし、病期が進んでいない症例でも少ないながら再発症例があります。このような再発を少なくするために集学的治療が必要となります。また、自覚症状がありながら長期間放置し、病期が進んでから受診する症例も多く見られます。  乳癌の治療は手術だけでなく集学的に行われます。治療方法も日々進歩しています。早期に治療を行えば高い長期生存が期待できます。

当院の乳癌病期別手術成績(生死不明率0.4%)
1993年1月から2004年12月までに手術し1年以上経過した症例の集計

  亡くなった患者様の死亡原因は必ずしも癌による死亡とは限りません。

病期別生存曲線